消費税「狂騒曲」――社会保障改革はもっと大胆に議論すべき
2012年06月18日 日経BPよりhttp://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120618/312907/?ST=business&P=1
消費税引き上げはどこまで先延ばしできるのか
明治以降で3度目の異常な財政状態
国債の利回りは非常に低い水準を維持している。国債価格を見るかぎりは、財政は破綻していない。日本の政府の債務は国内総生産(GDP)の200%近くあり、先進国の中では最悪の状況である。しかし、それでも国内の金融市場で国債が消化できているので問題はない。そうした議論をする人がいる。本当に日本の財政は破綻していないのだろうか。債務残高ではなく、年々の財政収支で見てみよう。現在、日本の政府税収は40兆円を少し超える規模であるという。それに対して、政府が行う歳出額は90兆円を超える規模だ。どうやって40兆円の税収で90兆円の歳出を賄うのだろうか。だれが考えても明らかなように、その差は新たな借金としての国債発行で賄うしかない。
国民は既得権益の多くを放棄することを求められている
日本の国民は、50兆円近くある財政ギャップを埋めるための調整を受け入れることができるのか。これが日本の財政の先行きにおける最大の課題である。社会保障改革で歳出抑制を国民に求める必要がある
十分でない社会保障改革はむしろ先送りでよかった
もっと大胆に踏み込んだ社会保障改革を議論すべき
日本の高齢化は始まったばかりである。これから何十年も高齢化への対応を続けていくことになる。これが日本の宿命である。団塊の世代が年金受給の時期に入っていくことで、年金への負担が大きくなる。年金制度の抜本的な改革が急がれるゆえんだ。ただ、その団塊の世代が75歳を超えるまでには、まだ10年以上ある。75歳という年齢に特に深い意味があるわけではないが、後期高齢者という呼称もあるように、この時期から医療費への負担が増えてくる。日本の医療問題が財政的に待ったなしになるのには、まだ若干の時間的な余裕がある。あるいは別の言い方をすれば、今でさえも医療の財政問題は大変であるが、10年後にはもっと大変になっているということでもある。
医療・年金・介護という社会保障改革について、今テーブルの上にのっている案がとても十分なものとは言えないというのは、こうした将来を見越しての話である。今テーブルの上にある案にこだわるのではなく、もっと大胆に踏み込んだ改革を議論しなくてはいけない。
消費税論議はまだ続いている。一寸先をも読むのが難しい政治の世界である。この論考が出るころには、予想をしないような変化が起きているかもしれない。当面は、政治が消費税の問題にどのように決着をつけるか。この点に注目せざるをえない。
伊藤元重(いとう・もとしげ)
東京大学大学院経済学研究科教授
総合研究開発機構(NIRA)理事長
東京大学大学院経済学研究科教授
総合研究開発機構(NIRA)理事長
ブログ筆者のコメント
税と社会保障一体改革に対する議論が続いている。現時点での対GDP債務、税収に対する歳出、国債発行から考えると日本の財政状態は危機に瀕していることは間違いない。国債の取引が安定して行われていることが、外見上の安心感につながっていることは否めない。しかし、日本経済の根幹ともいえる日本企業の海外での業績はここ数年大幅に下降しており、今後さらに株価や為替に影響をもたらすと考えられ、さらには国債への信用も揺らぎかねない。そうなれば、一気に日本に経済的ダメージの波が押し寄せギリシャ問題のごとく国家破綻につながる事態も否定はできない。そんな中、増税が先か歳出削減が先かの議論は如何にダメージを分散させ緩和的に状況をやり過ごすかという話に過ぎない。
一方で、人口統計から考えると、団塊の世代が後期高齢者になる10年後、医療・介護・福祉の社会保障費が莫大な歳出につながることは間違いない。今後、財政のV字回復が期待できないことから考えると今以上に無駄な、或いは客観的に効果のないサービスに対する医療費や介護保険を含む保険診療はどんどん削られる。これからは、医学的、科学的に良い、悪いの判断だけでなく患者や利用者に本当に有益なサービスと効率的に提供できるシステムが求められる。
危機的状況が予想される今だからこそ筆者の言う「もっと大胆な議論」をすべきであり対策を実行する必要がある。 事態は待ったなしで感情論では維持できない域に達していると言える。
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