一方で、社会保障制度改革の方向性はまだ見えていません。民主、自民、公明3党の合意で設置された社会保障制度改革国民会議も、昨年の12月上旬に第2回会合が開かれて以降、休止状態にあります。ただ、医療保険は企業などからの税収や被保険者が負担する保険料で成り立っており、税収や保険料収入は経済状況に大きく左右されることを考慮すると、医療界にとってもアベノミクスの成否は重要なものとなります。
さらなる医療崩壊の危機に直面する可能性も
安倍政権はどのような経済政策を打ち出しているのでしょうか。最大の目玉は公共投資の拡大です。公共事業に財源を投入し、雇用増や所得向上などの呼び水にしようというわけです。その第一弾として政府は1月15日、国の支出ベースで約10兆3000億円に上る2012年度の大型補正予算案を閣議決定しました。中身を見ると、古い道路やトンネル、河川などの補修、復興事業といった公共投資が半分を占めています。
問題は、現在の日本には経済成長と合わせて財政再建も求められていることです。2012年の日本の債務残高は約1000兆円に達し、対国内総生産(GDP)比は200%を超えました。これは、歴史的に見ても世界的に見ても最も深刻な状態にあります。その点から考えると、今回の補正予算案により2012年度の国債発行額は、民主党政権が財政規律の指針として掲げていた44兆円を大きく超えて52兆円になる見通しで、財政赤字はさらに膨らむことになります。
加えて、財政支出を伴う公共事業には、一時的に需要を盛り上げる効果しか期待できません。将来の成長分野への的確な公共投資などで持続的な経済成長を生み出さなければ、いわゆる“ばらまき予算”となるだけです。
アベノミクスで経済再生が実現すれば、税収や社会保険料収入が増えて社会保障の充実が期待できる上、2014年4月と2015年10月に予定されている消費増税により財政再建の実現の可能性も高まります。しかし万一、うまくいかなければ何が起こるのか。
2013年度予算以降もこうした方針を持続すれば国家財政は一段と悪化し、国が次の政策を行うための財源を確保できなくなるばかりか、財政支出を縮小しなければならない状況に陥ることも考えられます。そうなれば、公費が多く注ぎ込まれている医療費も抑制の対象になり、さらなる医療崩壊の危機に直面することは間違いありません。
安倍政権がデフレ脱却の目標としている物価上昇率2%を達成できても、物価上昇は金利上昇を招くため、財政再建のめどが立っていなければ長期金利が急上昇して国債の利払い費が増加します。結果、国が政策運営のための財源の確保に苦慮することになる可能性もあります。
図1 消費税5%引き上げ分の使途方針(財務省「社会保障・税一体改革について」より)
超高齢社会に突入したわが国は経済的にも財政的にも窮地に追い込まれており、安倍政権はそれを打破するために、リスクの高い道を選んだととらえることができます。
消費増税でも診療報酬引き上げはない
それでは、財政再建のめどはどうなっているのでしょうか。その切り札の一つが消費増税でしょう。
昨年8月、消費増税などを盛り込んだ税制抜本改革法が公布されました。経済状況の好転を条件に、税率5%の消費税は2014年4月に8%へ、2015年10月に10%へ引き上げられます。
社会保障費の増大が国家財政を圧迫していることから、これまでも国の分の消費税収は予算総則で高齢者3経費(医療、介護、年金)に充当することが規定されていますが、今回は法律で社会保障目的税化が明記され、少子化対策を加えた社会保障4経費に全てが充てられます。地方分の消費税についても、引き上げ分は社会保障財源とする方針が打ち出されました。2012年度予算では国と地方分を合わせて約13兆円だった消費税収は、10%に引き上げられれば単純計算で倍の約26兆円に増えることになります。
財務省は昨年4月、引き上げられる消費税5%分(約13.5兆円分)の使途の方針を示した資料を公表しました。それによると、4%分に相当する約10.8兆円は社会保障の安定化に充てられます(図1)。具体的には、年金国庫負担2分の1への引き上げに約2.9兆円、後代への負担のつけ回しの軽減に約7.0兆円、消費税率引き上げに伴う社会保障支出の増加に約0.8兆円を配分する考えです。要するに、これまで社会保障費に注ぎ込んでいた財政の赤字分の解消に充当するのです。
一方で、医療・介護の報酬引き上げや提供体制の整備、少子化対策といった社会保障の充実に充てるとしたのは、残りの1%分(約2.7兆円)だけ。ただし、そのうち医療と介護に回されるのは約1.6兆円(医療・介護の充実化策と効率化策を実施した上での差額)にとどまり、しかも1.6兆円のうち1兆円弱は低所得者の国保・介護保険料の軽減などに使われる予定です(図2)。
つまり、実質的に医療・介護の純粋な充実に振り向けられるのは約0.6兆円のみになりますが、これについても病院・病床機能の分化や在宅医療の充実、地域包括ケアシステムの構築などに重点配分する方針です。消費増税の主眼は、診療報酬の底上げといった社会保障全体の充実ではなく、財政再建にあるのが実態なのです。
こうした政策が実現すれば、財政再建は一息つくことになります。ただ、大和総研の調査提言企画室長である鈴木準氏は、「消費税を社会保障に充てることで財政に余裕ができるからといって、社会保障以外の歳出拡大に回そうということになると、何のために増税するのか分からなくなる」と指摘します。翻って安倍政権の政策を見ると、前述した通り、公共投資に大規模な財政出動を予定しています。これはある意味、消費増税で余裕のできる財源を“先食い”しているとも考えられるのではないでしょうか。
安倍政権の誕生で、医療と経済の関係はさらに密接になったと言えます。アベノミクスの今後の行方を注視していきたいところです。
消費増税でも診療報酬引き上げはない
それでは、財政再建のめどはどうなっているのでしょうか。その切り札の一つが消費増税でしょう。
昨年8月、消費増税などを盛り込んだ税制抜本改革法が公布されました。経済状況の好転を条件に、税率5%の消費税は2014年4月に8%へ、2015年10月に10%へ引き上げられます。
社会保障費の増大が国家財政を圧迫していることから、これまでも国の分の消費税収は予算総則で高齢者3経費(医療、介護、年金)に充当することが規定されていますが、今回は法律で社会保障目的税化が明記され、少子化対策を加えた社会保障4経費に全てが充てられます。地方分の消費税についても、引き上げ分は社会保障財源とする方針が打ち出されました。2012年度予算では国と地方分を合わせて約13兆円だった消費税収は、10%に引き上げられれば単純計算で倍の約26兆円に増えることになります。
財務省は昨年4月、引き上げられる消費税5%分(約13.5兆円分)の使途の方針を示した資料を公表しました。それによると、4%分に相当する約10.8兆円は社会保障の安定化に充てられます(図1)。具体的には、年金国庫負担2分の1への引き上げに約2.9兆円、後代への負担のつけ回しの軽減に約7.0兆円、消費税率引き上げに伴う社会保障支出の増加に約0.8兆円を配分する考えです。要するに、これまで社会保障費に注ぎ込んでいた財政の赤字分の解消に充当するのです。
一方で、医療・介護の報酬引き上げや提供体制の整備、少子化対策といった社会保障の充実に充てるとしたのは、残りの1%分(約2.7兆円)だけ。ただし、そのうち医療と介護に回されるのは約1.6兆円(医療・介護の充実化策と効率化策を実施した上での差額)にとどまり、しかも1.6兆円のうち1兆円弱は低所得者の国保・介護保険料の軽減などに使われる予定です(図2)。
つまり、実質的に医療・介護の純粋な充実に振り向けられるのは約0.6兆円のみになりますが、これについても病院・病床機能の分化や在宅医療の充実、地域包括ケアシステムの構築などに重点配分する方針です。消費増税の主眼は、診療報酬の底上げといった社会保障全体の充実ではなく、財政再建にあるのが実態なのです。
こうした政策が実現すれば、財政再建は一息つくことになります。ただ、大和総研の調査提言企画室長である鈴木準氏は、「消費税を社会保障に充てることで財政に余裕ができるからといって、社会保障以外の歳出拡大に回そうということになると、何のために増税するのか分からなくなる」と指摘します。翻って安倍政権の政策を見ると、前述した通り、公共投資に大規模な財政出動を予定しています。これはある意味、消費増税で余裕のできる財源を“先食い”しているとも考えられるのではないでしょうか。
安倍政権の誕生で、医療と経済の関係はさらに密接になったと言えます。アベノミクスの今後の行方を注視していきたいところです。
2013. 1. 18 日経メディカルオンラインhttp://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/eye/201301/528629.htm
ブログ筆者の考え
安倍政権発足以来、円安株高のあおりを受けてメディアでは国民に対して好景気が到来したかのような報道が増えている。大企業には確かに多大なる収益がもたらされているが、医療、介護業界において、今のところこの好景気に対する恩恵は何一つない。記事にもあるように、社会保障費の国庫負担は高齢化と医療技術の進歩が進行する限り厳しい状態に変わりはない。今、日本の債務残高が対GDP比の200%を超えた状態で財源の分配だけを考えていても何も解決しない。財源の分配ではなく、医療や介護の質の分配に目を向けなければならない。
安倍政権発足以来、円安株高のあおりを受けてメディアでは国民に対して好景気が到来したかのような報道が増えている。大企業には確かに多大なる収益がもたらされているが、医療、介護業界において、今のところこの好景気に対する恩恵は何一つない。記事にもあるように、社会保障費の国庫負担は高齢化と医療技術の進歩が進行する限り厳しい状態に変わりはない。今、日本の債務残高が対GDP比の200%を超えた状態で財源の分配だけを考えていても何も解決しない。財源の分配ではなく、医療や介護の質の分配に目を向けなければならない。
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