日経バイオテクオンライン 2012年10月8日
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20121008/163646/
橋本宗明
スウェーデンKarolinska Institutetは、2012年のノーベル生理学・医学賞を京都大学iPS研究所の所長である山中伸弥教授と、英Cambridge大学のJohn B. Gurdon教授が共同受賞したと発表した。成熟した細胞がリプログラミングによって多分化能を獲得できることを明らかにした研究が対象となった。山中教授とGurdon教授は2009年に共同でAlbert Lasker基礎医学研究賞を受賞している(この記事はどなたでもお読みいただけるようにしました)。
Gurdon教授は1962年にアフリカツメガエルのオタマジャクシの小腸上皮細胞の核を徐核した未受精卵に移植する核移植法により、オタマジャクシまで発生させられることを示した。山中教授はその44年後の2006年に、山中4因子を用いてマウスの体細胞を、07年にはヒトの体細胞を多分化能を持つiPS細胞(人工多能性幹細胞)にリプログラミングできることを示した。
山中教授らによる研究成果は、分化や発生の研究に大きなインパクトをもたらすと同時に、再生医療や創薬研究への応用の可能性も大いに期待できるものだ。このため山中教授は早くから「未来のノーベル賞候補」と目されてきた。しかし、実際にiPS細胞由来の細胞をヒトに移植するためにはその安全性を評価する技術の確立が不可欠である。また、例えば患者の細胞からiPS細胞を作製して創薬スクリーニングに利用するにも、iPS細胞の樹立効率を改善するなど、まだ技術的な課題も残っている。一方でここ数年、ノーベル賞は実社会で貢献した技術が対象になってきたことから、山中教授のノーベル賞受賞は「まだ先のことではないか」と憶測する声も多かった。
今回、選考委員会が山中教授らに授賞したのは、基礎生物学へのインパクトもさることながら、実社会への貢献を大きく期待してのものに違いない。実際、iPS細胞の作製技術は既に多くの医学研究者に利用され、医学研究に成果をもたらしつつある。山中教授は受賞決定後に京都大学で行った記者会見で、「早く医学応用を実現したい」「責任をより強く感じている」と繰り返したが、iPS細胞の実用化においても山中教授を含む日本の究グループが先導することができるかに注目したい
。
日本における医学研究の水準の高さを世界に証明し、国内のあらゆる研究者に希望を与える価値ある受賞となった。


